「理由を考える」とは? ―2025年度東京大学第一問を例に―


 こんにちは。マストの高倉です。大学入試の現代文では「理由を問う問題」が頻繁に出題されます。ただ、理由を考えるとは、漠然と「なぜ?」と問うことではありません。この点について、今回は2025年度の東京大学第一問の問題を通して、お伝えします。

本文

 鏡像を自己として認知できるようになるには、生後一年半~二年程度の時間がかかるといわれている。B・アムスターダムの古典的研究によると、生後一年ごろまでの乳児は、鏡に映った身体を他者として知覚している。鏡に向かって手を伸ばし、微笑みかけ、頰ずりをするなど、鏡像を遊び相手として扱うような振る舞いを見せるのである。ところが、一四ヵ月ごろから振る舞い方に変化が起こり始め、鏡像を見て感嘆したり困惑したりという揺らぎのある反応を見せつつ、全般的に鏡像を避ける行動が増え、二〇ヵ月ごろまでこの傾向が続く。この時期を過ぎると、二四ヵ月に向かって鏡を見ながら自己の身体を探索する自己指向行動が増えていく。

 生後間もない乳児にとって、自己の身体は、空腹や渇きのような内受容感覚、身体を動かすと筋肉や腱で受容される固有感覚によって主に構成されており、視覚的な関心を惹く対象ではない。むしろ乳児が視覚的に惹きつけられるのは、視野に登場する母親や父親の顔である。M・ジョンソンらの研究で知られるようになったとおり、新生児は各種の対象の中でも人間の顔を好んで注視する傾向がある。また、この傾向は実物の顔だけでなく、目・鼻・口などのパーツがあり、それが人の顔のように配列されている絵でも確認することができる。つまり、生後一年ごろまでの乳児にとって、身体に由来する体性感覚的な情報と、外界に由来する視覚的情報とは分断されており、いまだ統合されていないのである。鏡に映る視覚的な全身像を、「ここ」にある体性感覚的な情報と結びつけることができるようになるのに、生後二年近い時間がかかるということである。

(田中彰吾『身体と魂の思想史――「大きな理性」の行方』による)

問題

問 太字部「鏡像を遊び相手として扱うような振る舞いを見せる」とあるが、それはなぜか、説明せよ。

 生後間もない乳児は、鏡に映る自分の姿を他者として知覚し、遊び相手として扱うような振る舞いを見せるそうです。そして設問では、その理由が問われています。

 さて、ひとまず理由になりそうな箇所を探すと、第2段落に、

 むしろ乳児が視覚的に惹きつけられるのは、視野に登場する母親や父親の顔である。M・ジョンソンらの研究で知られるようになったとおり、新生児は各種の対象の中でも人間の顔を好んで注視する傾向がある。

 身体に由来する体性感覚的な情報と、外界に由来する視覚的情報とは分断されており、いまだ統合されていないのである。

 とあり、これらの内容を踏まえると、

 乳児にとって体性感覚的な情報と視覚的情報とは分断され、鏡像は好んで注視する他者として認識されているから。

 といった解答が得られそうです。しかしこれでは解答として十分ではありません。いったい何が足りないのでしょう。実はここに「理由を考える」ことの本質が潜んでいます。

 理由を考えるとは「意味の飛躍を埋める」ということです。前提と結論を設定し、意味の飛躍を埋める媒介項を考察することこそ、理由を考えることの正体です。今回の問題の前提と結論を設定すると以下のようになります。

前提)生後間もない乳児

結論)鏡像を遊び相手として扱う

 先述の解答では、体性感覚的情報と視覚的情報との分断をふまえ、鏡像は好んで注視する他者だという認識のあり方にまで言及していますが、肝心の「じゃあなんで遊び相手になるの」という点には触れられていません。「好んで注視する他者」だからと言って「遊び相手」とは限りませんよ。動物園でライオンをいくら興味津々に眺めたって、遊び相手にはなりませんよね。

 ですから「好んで注視する他者」と「遊び相手」との間に、「積極的に働きかけようとするから」という内容を加える必要があります。この内容は本文に直接書かれてはいませんが、両者の意味の隙間を埋める要素として十分に推測可能な内容です。このような、たとえ書かれていなくても、二つの物事をつないでいる必然的なプロセスのことを「中間論理」と呼びます。東大は本文の観察力とともに、中間論理を見抜く洞察力をも問うているのです。解答は以下になります。

 乳児にとって鏡像は自己の体性感覚と結びつかず、好んで注視する他者として認識され、積極的に働きかけようとするから。

 大切なのは、「飛躍を埋める」という理由説明の考え方です。結論に「鏡像を遊び相手として扱う」と設定したからこそ、「認識」までの解答だと浅いと気付き、中間論理を導こうと思考できるのです。理由を説明する問い対して、ただ漠然と「なぜ?」と考えてはダメです。「飛躍を埋める」という意識を持つことが大切です。

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