―「語感」と「対話」―


 

 こんにちは。国語科の高倉です。

 マストの講師陣は、日々、大学入試問題を研究しています。今回は入試問題の中から「語感」の大切さを感じ取れる問題を取り上げてみたいと思います。実際は5択の問題ですが、取り組みやすいよう、今回は3択にしてあります。是非とも一度解いたうえで、お読みいただければと思います。

本文

1 寝返りさえ自らままならなかった子規にとっては、室内にさまざまなものを置き、それをながめることが楽しみだった。そして、ガラス障子のむこうに見える庭の植物や空を見ることが慰めだった。味覚のほかは視覚こそが子規の自身の存在を確認する感覚だった。子規は、視覚の人だったともいえる。障子の紙をガラスに入れ替えることで、子規は季節や日々の移り変わりを楽しむことができた

(中略)

2 高価であってもガラス障子にすることで、子規は、庭の植物に季節の移ろいを見ることができ、青空や雨をながめることができるようになった。ほとんど寝たきりで身体を動かすことができなくなり、絶望的な気分の中で自殺することも頭によぎっていた子規。彼の書斎(病室)は、ガラス障子によって「見ることのできる装置(室内)」あるいは「見るための装置(室内)」へと変容したのである。

                       (柏木博『視覚の生命力―イメージの復権』より)

設問 

 太線部「子規は季節や日々の移り変わりを楽しむことができた」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①~③のうちから一つ選べ。

① 病気で塞ぎ込み生きる希望を失いかけていた子規にとって、ガラス障子から確認できる外界の出来事が自己の救済につながっていったということ。

② 病気で寝返りも満足に打てなかった子規にとって、ガラス障子を通して多様な景色を見ることが生を実感する契機となっていたということ。

③ 病気で寝たきりのまま思索していた子規にとって、ガラス障子を取り入れて内と外が視覚的につながったことが作風に転機をもたらしたということ。

                           (出典 令和4年度 大学入試共通テスト)

 さて、解答は出ましたか?解答は、ずばり②です。1段落に「ガラス障子のむこうに見える庭の植物や空を見ることが慰めだった。」とあり、続けて「味覚のほかは視覚こそが子規の自身の存在を確認する感覚だった」とあります。②はこれらの内容を「生を実感する契機」と適切に言い換えられています。①と③はどこが違うのでしょうか?③が違うのは明らかです。「作風への転機」については本文で一切記述がありません。

 では①は何が違うのでしょうか。

 実は、「救済」が言い過ぎなんです。「慰め」とは悲しみや苦痛を和らげであり、「救済」とは苦しみや絶望からの解放を指します。1段落を踏まえると、寝返りさえもままならない子規は、障子の向こうに移る景物を見ることで、心が慰められ、自身の存在を確認、つまりは自分が生きていることを確認できたと述べられています。裏返せば、子規はまだ苦しみのなかにいたのです。それでも見るという行為を通じて生を感じ取っていたのです。①を選択した方は、2段落の「絶望的な気分の中で自殺することも頭によぎっていた」といった内容から想像を膨らませすぎてしまったのかもしれません。しかし筆者が描いたのは、“救済”ではなく“慰め”。――その一線の違いに気づけるかどうかが、読解力の分かれ目です。

 ところで、「慰め」が和らげで「救済」が解放であるという違いに、みなさんはどう気づくのでしょうか? 辞書の意味をひたすらに暗記、という生徒はあまりいないのではないでしょうか?両者の違いは意味というよりもむしろ言葉への感覚、つまりは「語感」にあります。そして「語感」とはなにより「対話」によって磨き上げられるものに他なりません。言葉は常に、現実の世界で人と人とを結びつけるための手段として活用されます。だからこそ一つ一つの言葉が持つ語感は、他者との言葉の交わし合い、すなわち「対話」のなかでこそもっとも確実にかつ効率的に育まれるものと思うのです。

 マストでは、講師が話し、生徒が聞くだけの授業は決してしません。生徒自身の言葉を引き出し、その言葉に講師が新たな言葉を重ねていきます。この言葉の紡ぎ合い、すなわち対話の場でこそ語感は磨かれ、しなやかな読解力が育まれていくのです。

 共通テストの現代文は、決して知識や論理を問うだけではありません。問われているのは、人間が言葉を通して世界をどう感じ取るか。学習塾マストは、その“感じ取る力”を鍛えるための、対話の場でありたいと思っています。

――ぜひ、対話を通して語感を磨いてみませんか?

 体験授業をいつでも受け付けていますので、是非お気軽にお問い合わせください。

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